2021年7月22日早朝、西村栄男氏により
新彗星の発見がありました。
所属天文同好会誌にご本人による発見時の手記を書かれました。
ご本人より快くご承諾頂きました経緯で、ここに発見当時の様子を
自筆にできるだけ忠実に時系列に沿って掲載します。
これまでに発見当時の様子を発見当日、2日目に分けてご紹介して
きました。
今回は3日目の状況についてです。
この日に、発見公式登録へ進展していきます。
新彗星発見から天文電報局での公式登録までと発見された新彗星の
動向をこの記事の中で臨場感を持って体感ください。
発見3日後の手記より
翌24日(発見より3日後)午前1時の空は厚い雲に覆われていたが、
晴れることを信じて遠州灘近くまで行き待機することにした。
待つ間に携帯電話を見ると昨夜山形の板垣公一さんから電話が
入っていた。
こんな時間に迷惑かと思ったが電話を入れると1回目のコールで出て
くれ、彗星状天体の天体について情報交換し、超新星探しの間に撮影
頂きたいとお願いした。
私の待機する場所からは彗星があると思われる位置の雲が動かず撮影
することができなかった。
30分ほどかけて家に戻りパソコンを開くと「おめでとう」の文と画像が
板垣さんから届いていた。
また、千葉の野口敏秀さんからもカラーの画像が届いた。
板垣さんや野口さんの精密観測が中野さんのところへ集まり、軌道要素
が決定しどのような彗星名が公表されるだろうとそれを待つことにした。
夜、いろいろお世話になった中野さんにお礼の電話を入れると「過去の彗星
軌道と照合したが該当するものはないようだ。
あれば、2008年に板垣さんが発見したジャコビニ彗星のように名前がつかない
ようになるね。」との言葉。
私は冗談で「過去のものはあまり調べないようにしてください。」と笑いながら
お願いした。
COMET C/2021 O1 NISHIMURA
25日7時57分(世界時)にCBET5004が発行され、COMET C/2021 O1 NISHIMURA
が誕生した。
1994年に3人の名がついた彗星を見つけることができ、それはうれしいことであったが
、彗星探しを始めた少年の時の夢は単独の彗星名でありそれをやっと実現できた。
嬉しいというより世界中に大望遠鏡がひしめく中で見つけられず運行し、私のカメラ
に偶然入ってきたかとの感激が大きかった。
そして、位置関係で多くの人に見られず宇宙のかなたに去っていく彗星を愛しく思って
いる。
この彗星を例えるならズンドコ節の「汽車の窓から手を握り送ってくれた人よりも、
ホームの陰で泣いていた可愛いあの娘が忘らりよか」(明るく華やかな彗星より素朴な
姿の方が私には心に染み入る)という心境である。
今回の新彗星との出会いで、もう一つ気持ちの整理ができたことがある。
それは撮影に使用している赤道義への思いだ。
この赤道義は、2年前、会員の平松幸夫さんから譲っていただいたもので、平松さんに
「新彗星をこの赤道義で見つけてあげたい」との思いが叶ったことだ。
寒さや睡眠不足で辛い時も「平松さんと一緒にやっているんだ」と言い聞かせた。
いくつかの新星やわい新星、そして今回の彗星の出会いに大きなお力を貸して頂いた
ことに平松さんに心を込めてお礼を申し上げます。
金子静夫さんや小和田稔さんには早朝の確認観測ありがとうございました。
中野さんの手記より
この日(24日)、掛川の西村氏本人、金子氏の確認観測がダン氏へ伝えられた。
船橋の張替憲氏、山形公一氏、香取の野口敏秀氏からも確認観測が入ってきた。
これらの追加観測による改良軌道が記載されたCBET5008が公表された。
発表時、ほぼ太陽の向こう側にあった彗星の近日点距離(q)が0.79AUと地球の
軌道半径(1.0AU)と大差なく、その公転軌道が大きく変わらないため地球と彗星は、
太陽を挟んで向こう側を永遠に動く感じになります。
その間に彗星は近日点を通過した後は暗くなって行きます。
西村氏がこの新彗星を発見していなければ、誰のも発見されないまま静かに去って
いった彗星なのでしょう。
東亜天文学会彗星課による西村新彗星速報から
東亜天文学会彗星課の佐藤裕久さんは、今までの内外の西村彗星の観測より
軌道要素が求められました。(下記に掲載)
発見時当初より太陽に近い方向で発見されたのですが、位置予報図のElong.
(太陽からの離角)の数値が日々小さくなっています。
近日点は、7月22日に通過しています。
今後、地上から眼視的に観測するのは難しいようです。
Comet C/2021O1 Nishimura
T=2021 Aug.12.11491 TT
q=0.8035088
e=1.0
Peri 71.19636
Node 40.8490
Incl. 27.1444
2021 (0h R.A(2000) Decl. Deita r m1 Elong
July.25 06 51.89 +31 08.2 1.725 0.875 10.1 22.3
July.30 07 24.58 +31 30.1 1.710 0.842 9.9 20.8
Aug.4 07 57.95 +31 18.01 1.705 0.818 9.8 19.2
Aug.9 08 31.22 +30 30.7 1.710 0.806 9.7 17.7
Aug.14 09 03.60 +29 09.8 1.724 0.804 9.7 16.3
Aug.19 09 34.45 +27 19.5 1.748 0.814 9.8 15.1
Aug.24 10 03.35 +25 06.1 1.779 0.835 10.0 14.0
東亜天文学会彗星課 佐藤裕久さんから頂きました。彗星課の新彗星発見速報から
引用しました。
この数値は西村彗星の軌道要素と彗星の位置推算予報になります。
ここから太陽と地球と彗星の位置関係、放物線軌道の有無
彗星の位置情報、明るさ、太陽との離角がわかります。
今後、別の機会でこの表の見方等を詳しく説明したいと思います。
今回、注目してほしいのが前述したようにM1(彗星の光度(明るさ)
とElong(太陽の離角)の数値に着目しますと、光度は9から10等台
ですが、太陽との離隔の数値が日々に小さくなっております。
離角が小さいというのは、太陽に近くて彗星の観測がむつかしいという
ことです。
7月22日に西村さんがこの彗星を見つけなければ、
世界のだれもこの彗星に気が付かず、
遠日点のかなたに行ってしまったかもしれません。
この発見の貴重さがわかります。
コメットハンターの村上茂樹さんのホームぺージにこの彗星の観測記事が
載っていましたのでリンクします。
こちらでもこの彗星の観測のむつかしさが記事から伝わってきます。
コメットハンター村上茂樹のホームページ 7月27日の記事
発見者の西村栄男氏
関連記事リンク 西村栄男さん、27年振りの新彗星発見を語る。 アストロアーツ
まとめ
西村彗星の発見事情をご本人の手記を元に3回に分けて紹介しました。
発見から確認までの臨場感が伝わりましたでしょうか。
この彗星は太陽に非常に近い位置で発見され、その後も太陽との
離角の位置関係で観測の難しい条件のまま運行して行きました。
今回の記事は、専門用語が多く、理解が難しい記事ですが、
彗星発見は、アマチュア天文家の醍醐味です。
この記事を読んで、彗星や新彗星発見に興味を持って
頂けたらうれしいです。
今後も、日本人による明るい新天体発見を
お伝えして行こうと思います。
引用文献
天文同好会 浜松スペースハンタークラブ 会誌 ほし 第181号より引用
参考文献
月刊天文ガイド 2021年10月号 彗星ガイド9月号
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