ハンセン病療養所である国立療養所長島愛生園は、1949年に設置され、
1960年頃まで入所者により、天体観測が行われておりました｡
この天文台は長島愛生園の気象観測所の一部として設置、主に太陽黒点
の観測と恒星等の掩蔽観測を行う他に、園内の入所者や職員に向けた
観望会も開催されました。
この天文台の設置と観測の指導に、京都大学花山天文台の台長の山本一清
氏と彗星観測者として知られる本田実氏が深く関わっていました｡
そして、天文台の天体観測記録は山本氏および東京天文台に送付され活用
されていたそうです｡
ハンセン病療養所という環境における長島天文台の天文観測はアマチュア
天文学の歴史とハンセン病療養所の歴史の双方の観点から他に類例があり
ません｡
今回はこの天体観測室の取り組みについて紹介します｡
注）タイトル画像は、文中の天文台ではありません｡
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不治の病ハンセン病
ハンセン病は、「らい病」と呼ばれた感染症です｡
当時は、有効な治療薬がなく不治の病とされ、病状が進むと容姿が
大きく変化するため大変、怖い病気でした｡
遺伝病という誤解認識もあったせいで患者本人からその家族までが
差別的扱いを受けました｡
明治から昭和の初めは強制的に療養所に隔離する政策が取られ、一生療
養所から出られない覚悟で入所していたそうです｡
戦後になり、有効な治療薬が普及してからも、この頃の差別的認識が根強く
社会復帰ができなかったり今でも10カ所あるハンセン病療養所に住む回復
者が多くいるようです｡
長島愛生園
長島愛生園は、岡山県瀬戸内市にあるハンセン病療養所のひとつで、今も
元患者（回復者）の方々が居住しています｡
療養所は一つのミニ社会のようになっていて、軽症患者はその中で「患者作業」と
称する様々な仕事に従事していました。
中でも愛生園には気象観測所と天文台があり、患者である入所者が観測を行って
いました。
特に気象観測は、岡山測候所（地方気象台）の援助もあり、昭和13年からアメダスが
設置された昭和54年まで大阪管区の正式な気象観測所として入所者が観測を行ってい
ました。
また昭和20年代から30年代にかけて稼働していた天文台には、英国の名匠ジョージ・
カルヴァーのレンズを用いた5インチ反射望遠鏡が設置され、太陽黒点の観測や恒星
の掩蔽観測が行われていました｡
その観測結果は天文台設立に協力した京都大学花山天文台の初代台長である山本一清
や東京天文台（現在の国立天文台）に送られていました。
本田実氏が天体観測指導を行った
長島愛生園には、山本一清氏と本田実氏が深く関わっております｡
愛生園の気象観測所の主任であった横内武男氏（歌人でもあり、別名に依田照彦）が、
山本一清氏に送った手紙の文面に「『今後私はこの島に一生を終わる運命にあ り、
生をかけてこのこと（天文観測）をやりたい念願です』という天文への思いが
述べられています｡
長島天文台には山本先生の教え子でもあった本田実氏が指導のためしばしば訪れ、
太陽黒点や星の掩蔽観測などが行われていました。
これらの観測記録は山本先生残されたの資料から見つかっています
山本の紹介で倉敷天文台の 本田実が初めて愛生園を訪れたのが1948年暮れのことで
した。
本田は保管されていた望遠鏡の状態を確認し、銀の渡金がはげていたため、持ち帰って
レンズにアルミ渡金を施した。
また望遠鏡の格納小屋はスライディングルーフ形式にした｡
依田氏は、本田氏に対面したときに本田氏の当時の業績から学者肌の立派な風貌の先生を
想像していたら童顔で、短髪の頭を深く下げたので恐縮した｡
非常に丁寧で親しみやすい方だった言い、この時の出会いを歌にも詠んでいるそうです｡
依田の没後に出版された「依田照彦歌集」に集録されいて「君が掌に載せて明りに見する
ミラーまことカルバーの サインがありぬ」という依田の歌からは、ハンセン病者であった
依田にも気さくに接した本田の人柄と共に、依田がカルバーのレンズ の重要性を認識して
いたことも読み取れます｡
依田は愛生園入所前に 海軍技術研究所でレンズの設計を行っていたと山本への手紙に書い
ている｡
参考文献及び引用の文献
ハンセン病療養所・長島愛生園における天文観測
磯部洋明 京都市立芸術大学美術学部 京都大学宇宙総合学研究ユニット
ハンセン病療養所 長島愛生園における気象・天文観測 はじめに：ハンセン病について
磯部洋明（京都大学大学院総合生存学館 / 宇宙総合学研究ユニット）
関連記事リンク
磯部洋明 京都市立芸術大学美術学部 京都大学宇宙総合学研究ユニット
まとめ
ハンセン病療養所である国立療養所長島愛生園は、1949年に設置され、1960年頃まで
入所者により、天体観測が行われておりました｡
この天文台は長島愛生園の気象観測所の一部として設置、主に太陽黒点の観測と恒星等の
掩蔽観測を行う他に、園内の入所者や職員に向けた観望会も開催されておりました。
天文台の設置と観測の指導に、京都大学花山天文台の台長の山本一清氏と彗星観測者とし
て知られる本田実氏が深く関わっていました｡
ハンセン病療養所という環境における長島天文台の天文観測はアマチュア天文学の歴史と
ハンセン病療養所の歴史の双方の観点から他に類例がありません｡
不治の病の患者たちに生きがいを与えたこの取り組みは、今にも通じるものではないで
しょうか｡
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